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五味康祐 オーディオ遍歴 [書籍・雑誌]

五味康祐 オーディオ遍歴
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オーディオ評論家としても有名な芥川賞受賞作家、故 五味康祐氏の「西方の音」、「天の聲」等の主要著作より、クラシック音楽関連の文章は「音楽巡礼」として、オーディオ機器関連の文章が「オーディオ遍歴」として再編集され、各々19編が一冊の文庫本に纏められたものです。

「小生はただ、少しでも音楽をいい音で聴きたいと願っているにすぎない。」、「兼ねてあこがれた部品に取り替え、音が良くなったときの喜びは、格別だ。あの満ち足りたおもい-充実感は、いちど味を知ったらやめられるものではない。だからこそオーディオの泥沼にぼくらは溺れてきた。溺れるのも又言い知れぬしあわせであった。」といった端的な表現は、五味氏の様なスーパーマニアも私の様な端くれも、理想の音を追求するレベルは別次元としても、オーディオに対する基本的な思いに違いの無い事が判りとても嬉しく感じました。

一方で、「一枚でも多く、先ずいいレコードを聞くことだ。装置をいじるのは、レコードを聴きこんでからでも遅くはない。」と繰り返し強調されています。
つまり、オーディオは音楽を聴くための手段であって、若いうちは目的である音楽に重きを置くべきという考えで、両方楽しむには財力も時間も掛かることから、優先すべきは目的の音楽と仰っているのだと思います。

所詮は趣味の世界の話で手段としての道具に関心が高いのも有りだと思いつつも、私自身ハードを揃えるのに精一杯で肝心のソフトに回すお金の無かった学生時代の状況に照らし合わせ、後悔先に立たずと感じた著作です。



先に紹介した『いい音 いい音楽』のあとがきに、娘さんの五味由玞子氏が書かれた「父と音楽」という文章がありましたが、この本のあとがきにも由玞子氏の書かれた「父とオーディオ」が載っており、次の文章で締め括られています。

「父とオーディオ 五味由玞子」 より抜粋
 父のリスニング・ルームとアンプ、スピーカー、それらは私にとっていわば聖域ともいえるものである。むやみに家人が手をふれることを父が拒んでいたこともあるが、父の音楽への姿勢の中に神観と結びついた、厳粛なものを視てきたからだとおもう。それゆえ今でも、私はリスニング・ルームに入ると緊張する。父が帰天したのち、我家の器械は、いろいろと故障がおこり、まともに鳴ってくれなかった。真空管専門の誠実な方にこつこつと直していただき、最近また少しづつ、美しい響きを聴かせてくれるようになった。それが何よりも私にはうれしい。
 父の再生装置から流れる音楽は、この上ない勇気と力を私に与えてくれる。タンノイが鳴っていてくれるかぎり、父の声を、私はきくことができる。そう信じている。(1982年11月)
タグ:五味康祐
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みやもっち

読みたい本ですね。
by みやもっち (2012-04-07 11:14) 

coregar

みやもっち様、コメントありがとうございます。
五味氏のオーディオエッセイは、かなり重複して収録されているので、復刊されている「オーディオ巡礼」や「いい音いい音楽」あたりが良いかもしれません。
by coregar (2012-04-07 13:20) 

そらへい

書名は忘れましたが、若い頃何冊か読んだ記憶があります。
五味さんの教えを守ったと言うより、アパート住まい
コンクリートの床に機器を置くなんて出来ません。
それよりソフトを一枚一枚増やしていく方が容易でしたから
一端、装置を揃えたあとはより音楽を聞くほうに力を注いだ気がします。
五味康祐さんは、音楽に自らの魂の救済を求められていた、
そんな方でもありました。
by そらへい (2012-04-07 14:37) 

coregar

そらへい様、お世話になります。
この本も精神論的な内容が多いですが、「五味オーディオ教室」に電源ソケットの差し方を換えると音が換わる(音像が鮮明でSN比が優れる)というのがあり、早くから電源の極性合わせを実践されていた事を知って、以来その教えを守っております。
by coregar (2012-04-08 07:15) 

song4u

いいですね、このあとがき。
父の声を聞くことができる、そう信じる・・・

そういう親子の間に存在したハードおよびソフト類も、
さぞかし幸福だったものと容易に推測されますね。
by song4u (2012-04-08 12:03) 

coregar

song4u様、コメントありがとうございます。
「いい音いい音楽」の由玞子氏のあとがきが父娘のぬくもりの伝わってくる名文で、こちらにも由玞子氏のあとがきがある事を知って読んだのですが、文豪の娘さんだけあって文章が巧いです。
by coregar (2012-04-08 13:31) 

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